「第20回全国和算研究大会」開かれる

貴重な歴史遺産「算額」どう守るかで議論

加須市はかつて算数、数学の先進地域だった

ーーこの事実を皆さんはご存知でしたか?8月31日~9月1日、市民プラザかぞで開催された「第20回全国和算研究大会」を取材して記者は初めてその事実を知った。会場に集まった全国の数学者、和算研究者の話を総合すると、和算の難問を解いたお礼に神社仏閣に奉納する絵馬=算額の現存数では加須市は日本有数であり、埼玉県内では№1だとか。なぜ加須に和算が広まったのか、和算の魅力とは何か、風化する算額文化を後世に残すためにはどうすべきかなどを関係者から聞いてみた。ジャーナリスト・長谷田一平

和算とは江戸時代に普及した日本独特の算数、数学のこと。その数学者の代表・関孝和はイギリスのニュートン、ドイツのライプニッツとともに「世界三大数学者」のひとりに挙げられるほどの大天才だった。

その関孝和の後継者と言われた都築利治(種足地区)と溜谷要斉(大越地区)の2人は加須出身だった。このことが和算文化で加須市が他の都道府県より〝一日の長あり〟の原因になっていた。研究発表で登壇した内田圭一・かぞ算額文化保存会会長は「新田開発に不可欠だったのが和算だった」と指摘。土地の測量などで百姓の若手の間で和算が大変なブームになったことを挙げ、市内の神社仏閣に奉納した算額が数多く残るのもその証拠だと説明した。その算額だが、数学の問題と解答を書いた板と言えばお分かりだろうか。板の大きさは街中にある掲示板程度が一般的だ。そこに図形問題が何問か掲載され、提案者と解いた人々の名前が板上に明記されている。

加須は埼玉一算額の大宝庫

この文化財は国立国会図書館や和算関係者の話をまとめると、算額数は資料的には全国に1,800ほどあり、現存するものは1,000程度。保有数でトップは福島県103で、次いで岩手県93、埼玉県91となっており、埼玉県91うちの20が加須市にあると言われている。かぞ算額文化保存会によると加須市に残る算額の代表は、總願寺、玉敷神社、天神社、三宮寺、雷神社が特に有名。ただし常に観覧できるわけではない。趣旨を神社仏閣に話さないと拝観できないケースもある。また無人のお堂の中にあるため拝観不可能な事例もある。いずれにしてもこの算額文化への認知度は国及び地方自治体では極めて低い。だから当然国民市民に算額って知っていますかと聞いても、算額、What?との反応が返ってくるのも致し方ないことだ。

算額文化の風化を警戒

この低認知度に全国和算研究大会でも警鐘が鳴った。松本登志夫・群馬県和算研究会事務局長は「このまま算額文化の価値が風化していけば、いずれ古びた板として捨てられる運命にある」と注意喚起の声を挙げた。小林龍彦・日本数学史学会会長は以前文化庁に算額文化を世界遺産にすべきと提案したことを明らかにした。しかし思いが伝わらなかったとして現在は記憶遺産認定を視野に入れていることを話してくれた。そのうえで一番肝心なこととして「子どもたちに算額を通して数学に関心を持ってもらう環境づくり、郷土愛の醸成だ」と話す。

和算の魅力はゆっくり思考

2日間に渡って行われた和算全国大会には全国から数学者、和算愛好者約60人が参加していた。大会の感想、和算の魅力を聞いてみた。一番印象に残ったのは岩手県から来た男性の一言だった。「加須市に明治以降、このような素晴らしい算額がたくさん残り奉納されていたとは正直驚いた」「和算の魅力ですか?漢文のややっこしい文章を読み、ゆっくりと時間をかけて設問を考え、解いていく、流れなのではないでしょうか」と語ってくれた。

加須市はぜひ算額を文化財に

大会を主催した内田圭一・かぞ算額文化保存会会長は風化する算額を文化財として後世に継承していくためにも「現存する算額、絵馬への価値を認めて文化財指定にしてほしい」と加須市に強く要望していた。

記事:農事新聞2024年11月1日号
写真提供:農事新聞

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