100年続く“のれん”M&A活用し守る

決断した加須不動産前社長鈴木光浩氏に聞く

プロフィール

鈴木光浩(すずきみつひろ)

1956(昭和31年)7月17日、
東京都荒川区三河島生まれ。69歳。

東京外国語大卒。味の素入社。サラリーマン生活15年間の大半は海外勤務、最長は中国香港。1989(平成元)年6月4日の天安門事件直後に帰国。94年自主退社。この間、92年に宅地建物取引士を取得、95年~2023年までの28年間、加須不動産社長。

好きな言葉・信条:
紀元前1世紀の古代ローマの詩人ホラティウスに登場するラテン語の格言「その日を摘め」。その心は明日に期待することなく今日意味を持って生きよ。つまりやるべきことは今日やるということ。

趣味:
将棋とゲームソフト。

全株式譲渡から2年現在の心境は…

人口減少が加速し、高齢化が進展する中、今わが国の中小企業で後継者不足が顕著になり、この解決策の一環としてM&A(合併&買収)を活用して事業承継を図る会社が増えてきた。
いずれも長年顧客に親しまれてきた企業の継続と更なる発展を求めた譲渡企業によるパートナー探しだが、2年前、加須市でもM&Aによって100年以上続く〝のれん〟を守った企業があった。今回はその(株)加須不動産に焦点を当て、同社社長だった鈴木光浩氏(現在は相談役)に足利銀行の仲介で全株式を譲渡する形で久喜市内で手広く不動産業を展開している(株)フジハウジングの傘下に入ったいきさつ、M&Aを採用してよかったことなどを伺った。

聞き手 ジャーナリスト・長谷田一平

突然視界不良に万一を考え検討

ーー今回御社の沿革を調べたら加須不動産の前身みの三商店の創業から今年で123年なんですね。またどうしてそんな伝統ある企業を事業譲渡しようと思ったのですか

「きっかけは私が2021(令和3)年5月、突然病気になったことだったんです。車を運転中に視界がおかしくなったんです。急いで眼科に行ったら視神経の毛細血管の血液不足で反応が遅れる『両眼複視』と診断されました。幸いこの病気の方は薬投与だけで完治したんですが、医師からまた再発するかも…と言われ、それ以降、自分に万一のことがあったら…と常に考えるようになりました」

ーー鈴木さんは4代目の社長さんですよね、ご子息にバトンタッチすることは考えなかったんですか

「鈴木家は代々自分の身内から代表者を出すのが鉄則となっていたんですが、私の目から見て2人いる息子は『不動産業に向いていない』と判断しました。それと仮に息子を今後一人前に育てあげるとすると私の年齢が80代になってしまうことも考慮し、M&Aでの事業承継を真剣に考えました」

ーー2023(令和5)年7月14日にフジハウジングとM&A契約締結調印式後、今年で2年が経過しましたが、この間の一番の思い出は…

「今振り返ってみると〝縁〟しかありません。譲受企業となっていただいたフジハウジングもそうですが、M&Aで仲介の労を取ってくださった足利銀行も、今思うと縁と偶然が重なりあったからこそM&Aは成立したと思っています」

M&A成功には縁と偶然を実感

ーーどこに縁や偶然を感じたのですか

「フジハウジングに関しては足利銀行が持参したM&A斡旋企業書類リストの一番上にあった。これは縁であり、偶然です。斡旋企業は15社もあって、足利銀行は私に最初にどこの企業さんと話しますかと言うので、私が書類の一番上からでいいと言った。今思うと運命を感じます」
「足利銀行の方ですが、M&Aを実施するのにあたっては当然他行にも企業斡旋をお願いしました。そういった中で仲介の労を取っていただく銀行として足利銀行を選んだのですが、実は私の義父3代目社長・茂氏がみの三商店で不動産業を始めると決断した時、偶然にも大変お世話になったのが足利銀行でした。

個人商店から会社組織に脱皮した

財務と人事面が飛躍的に改善

ーー株式を全部譲渡するM&A成立後、今年7月14日でちょうど2年が経過しましたが、M&Aを選択してよかった?

「もちろんよかったです」

ーー何が一番よかったですか

「個人商店から会社組織に脱皮したことです」

ーーどんな点が今までより良くなりましたか

「経営システムがしっかりした。IT、パソコン、メールの使い方から従業員各人のスケジュールが分かるようなシステムが導入されたことです」
「また人事面では従業員各人の意欲の掘り出し、適性の見分けの一環で、10人いた従業員1人1人とフジハウジングの幹部が面談して適正配置をしてくれ、これまでわが社にはなかった「管理」「営業」部門を作ってくれたことです」

ーー加須不動産が創業以来123年間受け継がれてきた企業スピリットってなんですか

「一言で申せば『常にお客様の立場になり、変なものを勧めないということですかね」義父茂は『トラブルが起きたら自分が損をしてでも自分がお金を出してでも解決する』この精神に徹したそうです。企業はお客様から信頼されないと長くは続きません」

今後への期待は不動産再生事業

ーー最後に令和の時代、新しい不動産屋像、魂をバトンタッチした新生加須不動産の経営者に期待したいことは何ですか

「加須は空き地、空き家が多いのです。これがまちの賑わい喪失の原因になっています。活用されていない不動産を工夫を凝らして新たな不動産として生まれ変わる再生の道を探ってほしい。若い人々の知恵と発想で大勢の人々の需要に応えられるような不動産再生事業の成功を期待したい」

ーーどうもありがとうございました。

取材を終えて

鈴木光浩さんは実に温厚篤実な方だった。どんな質問にも嫌な顔ひとつ見せず淡々と率直に語ってくれた。そんな中、中小企業を苦しめる消費税の存在と行政の無策でまちの原風景が壊された土地政策に対しては珍しく語気を強めた。とくに加須中心部の衰退ぶりには都市計画の野放図な変更が一因と指摘した。またかつての賑わいを取り戻すには空き家・空き地の再生が必須と強調し、経営権をバトンタッチしたフジハウジングの若手経営者に託す考えの一端を述べた。この中でこれまで培ってきた知見が垣間見え、28年間務めた社長の矜持を感じた。

(長谷田一平)

農時新聞とは

topic_nouji20190505.png
農事新聞見本

農時新聞は、農業生産法人 誠農社が発行する フリーペーパーです。
地域の振興と活性化を目的に、毎号、久喜・加須を中心に地域の話題が掲載されています。
3面には”寄せ書きトークルーム”といった投稿コーナーなど、地元に密着した地域の情報が揃います。
4面には読者投稿の和歌コーナーやプレゼントも充実。
久喜・加須市民だけでなく、都心から郊外に移転を考えている方にとっても良い情報源です。
最新号およびバックナンバーは、発行元:誠農社のサイトでご覧いただけます。

最新記事

◎知って楽しい加須 とは

知って楽しい加須」は、加須市の不動産会社 株式会社加須不動産が運営する加須市周辺の情報や住まいに関するあらゆる疑問や悩みを解決するための情報を発信しているサイトです。

加須不動産では一人一人のニーズに合わせたご提案を行い、住まいを通じた人生設計を支援しています。お部屋探し・テナント探し・アパートなどの賃貸管理・資産価値リフォーム・おうち探し・土地探し・不動産売却・相続対策・土地有効活用は加須不動産にお任せください。